【書評】決断できなくて辛い思いをしてるあなたへ「選択の科学」
「何を選べばいいか全然分からない」という経験したことありませんか?そういった方は選択に潜む魔物に巣食われているのかもしれません。今回はその選択に潜む魔物の正体を、「科学の力」でひも解いた書籍「選択の科学」について紹介します。
0.著者シーナ・アイエンガー氏について
まず、著者が「選択」を研究テーマに選ぶに至るまでのバックグラウンドがヤバすぎます。というのもこの著者、幼少期に信じていた「自分の選択する全ての事柄を両親が決めるのは当たり前」という考え(シーク教の影響)がアメリカの学校に進学した際に覆されたり、13歳の時に父が亡くなったり、高校に上がる頃には全盲にまでなったりしています。
多くの人は、これを辛い人生だと思うでしょう。しかし著者は異なった解釈をしており、「自身の壮絶な人生を偶然や運命として捉えるより、自分が選択したと考えることで自身の人生に明るい展望を見出そう」と考えたそうです。そしてその考え方が原点となって、選択を学術研究の対象として選んだそうです。
1.選択は本能である
本書では、選択は生物の普遍的な欲求であり、人間にとっては自由権、生存権に並ぶ不可侵の権利であることを主張しています。
それを裏付ける根拠として、選択の自由度と寿命に関するある研究があります。その研究結果は衝撃的なもので、なんと野生の動物より動物園で飼育されている動物の方が寿命が短いこと、さらにはドアマン(職業階層が低い職種)の方がプレッシャーの大きい経営者より病気にかかりやすいことを証明して見せたのです。これらの結果から、生物は「自分で選択すること」を強く望んでおり、その願望は命の危険に晒されるストレスや、大きな責任を背負うストレスを顧みないほど強いということが分かりました。
私たちにとって選択する権利は目先の損得勘定(相対的価値)とは一線を画した、絶対的価値なのです。
2.選択に潜む魔物
結論から述べると、魔物の正体は私たちの選択を裏から操る者です。私たちは普段、自分の意思で選択しているように思われますが、実際は無意識に選ばされているのです。著者は研究を通じて魔物、すなわち人間の選択に影響を及ぼす3つの傾向を発見しました。この3つの傾向について、順に見ていきましょう。
2-1.他人の選んだものは選びたくない
皆さんは飲食店で友人が選んだものと被らないように、別のものを注文した経験はありませんか?この「まねっこしたくない」傾向は多くの研究で明らかになっており、中でも有名なのは居酒屋で行ったある調査です。
客に4種類のビールの試飲をやっていると伝え、半数のテーブルではウェイターが一人一人に注文を聞く一方で、もう半数のテーブルではカードを配り、他の客と相談させずに記入してもらいました。その結果、注文を聞いたテーブルよりカードで注文したテーブルの方が同じビールを選択する傾向にありました。驚くべきことなのは、その後に行った無料サンプルの満足度調査でカードで注文したテーブルの方が、他の客と同じビールを飲んだ人は多かったのに、満足度が高かったことです。
この調査から、人間は無意識に「私は他人とは違う」「まねっこしたくない」と考えており、それが自分にとって満足のいく選択の妨げになっていることが判明しました。
2-2.実物よりイメージを重視する(プライミング効果)
これはコカ・コーラとペプシの話が有名ですね。被験者にコップに入れた2種のコーラを与えて、どちらが好みか聞いたところ、ペプシの方が多くの人に選ばれた。しかし、「こっちがペプシで、こっちがコカ・コーラです」と事前に教えたら、多くの人がコカ・コーラの方が好みだと答えた。これは人間が無意識のうちに実物よりもイメージで選んでいることを証明しています。コカ・コーラ社はこの事実を早い段階で看破し、イメージ戦略に努めたとも言われています。
2-3.思い込みを肯定する(確認バイアス)
私たちは常に首尾一貫した自分でありたいと思っています。そのため、自分の持つ信念と行動の間に矛盾が生じたことに気づくと、不快感を覚え、なんとかして解消しようとします。この不快感を解消する際、私たちは「思い込み」で自己認識をあざむくことがあります。
それを象徴する例として、著者が就活生に対して行った追跡調査があります。この調査は彼ら彼女らが就活を始めてから、就職を勝ち取るまでの間に3回にわけて実施され、その内容は「高収入、雇用の保証など仕事の条件13個を順位付けする」というものでした。
多くの就活生は初期の段階では、「創造性を発揮する機会」や「意思決定を行う自由」などの理想主義的な条件を上位に挙げていましたが、就活が終わった後に聞いた調査では「高収入」「福利厚生の充実」など実際的な条件を上位に挙げていました。面白いのが、ここで「あなたの仕事を選ぶ条件変わってますよ」と指摘すると就活生はなんと、「私は最初から、高収入を重視していた。仕事を選ぶ基準は変わっていない」と矛盾した発言をするのです。
このような自分にとって都合のいい、偏った情報ばかりを探そうとすることを確認バイアスと言います。著者は確認バイアスにとらわれないためには、信念などより高度な優先順位を持つことが大切だと述べています。
3.選択に関する2つの幻想
さて次は、私たちが選択に関して誤解している、2つの事柄について紹介します。
誤解その①選択肢は多いほうが良い!
ここで突然ですが、問題。
あなたはスーパーでジャムを試食つきで販売することになりました。あなたは初めのうちは6種類のジャムを販売していましたが、ある時ジャムの種類を24種に増やしました。皆さんはどちらの品揃えの方が試食されると思いますか?またどちらの方がより売れると思いますか?
答えを先に言ってしまうと「より試食されるのは24種類の品揃え」「より売れるのは6種類の品揃え」です。ここで「何で24種類の方がたくさん試食されてるのに、売れてないの!?」と疑問を持つと思います。
これは著者が実際に行った実験で、24種類の品揃えで購入しなかった被験者にヒアリングを行ったところ、「多すぎて、選べない。」と答えたそうです。選択肢を増やすとそれを判断する労力も増えます。当然、多すぎると1つに1つにさけるリソースは無くなってしまいます。それなら、選択肢を絞ればいいじゃない?と思うかもしれませんが、人間は「失うことを極度に恐れる」ので、結果的に絞れないまま「選べない」という結論に至るのです。
このジャムの実験から、「豊富な選択肢が必ずしも利益になるとは限らない」ことが理解して頂けたかと思います。
誤解その②選択は自分の意志だけで決めるべき!
ここまで、何事も自分の意志で選択した方がいいんじゃないかと思ってる方、間違いです。世の中には選択を他人に委ねた方が良いときがあります。
本書では、早産で生まれた900gの赤ちゃんについて紹介されています。その赤ちゃんは危篤状態で、回復の見込みはありません。そのため医師が延命治療を続けるか、人工呼吸器を外すかの2択しかないと両親に説明しました。ここで究極の2択を課された両親と最終的に医師が判断することになった両親のグループに分け、追跡調査を実施されました。その結果、選択を医師に委ねた両親の方が、選択に対する否定的感情が少なかったことが分かりました。
この究極の2択は、両親に赤ちゃんを値踏みさせる最悪の状況を作り出してしまっています。つまり、両親にとってその選択は一生消えない痛みを伴うものなのです。著者は思い入れが強すぎて冷静な判断ができない場合は、専門家や信頼できる人に相談することを勧めています。
4. 選択の魔物から逃れる方法
では、どうすれば選択の魔物から逃れることができるのでしょうか?結論として、こういった非合理的な選択は避けられないけれども、減らすことは十分できます。減らす方法、それは自分のした選択を検証すれば良いのです。
選択の検証の実例として、私モラトリアム人間のケースを挙げていこうと思います。
私は、大学在学期間中に4回も海外留学・インターンをしていました。当時の私は海外に行けば自分を変えられると思っていました。しかし、4回渡航しても大した変化はありませんでした。*1ここで私は「何故、海外に留学・インターンするという選択をしたのか」考えました。渡航前は「英語力向上させるため」や「異文化交流したいから」と理由をつけていましたが、英語を鍛えたいのであればオンライン英会話でもできるし、異文化交流したいのなら留学でなくとも観光でこと足りるはずです。
熟考の末、単純にストレッチゾーン*2に出たかったという結論に至りました。そうであれば、高いコストをかけて海外に行かずとも、新しいことに挑戦すれば済む話なのです。私がブログを始めた理由もこれが大きいです。
5.人生は選択と偶然と運命の三元連立方程式
この言葉は本書の最後に出てきます。この3つを数学で例えるなら、選択は変数(x)、偶然は乱数、運命は定数に相当すると考えています。何が言いたいかというと、「偶然と運命は自分でコントロールできないけど、選択は自分次第でなんとかなるから、選択で道を切り開こう!」ということです。
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