脱モラトリアム奮闘記

モラトリアム脱出&ありたい姿を目指すブログ。「他人の記憶に残るようなアイディアを発信する」ことが本ブログのコンセプトです。

【書評】男性にこそ読んでほしい本NO.1!「82年生まれ、キム・ジヨン」

 

 

「82年生まれ、キム・ジヨン」は「性差別」に悩まされるキム・ジヨン(1982年生まれで一番多い韓国女性の名前)の半生を描いたフェミニズム小説である。

 本書は韓国の女性なら、誰もが経験する「生きづらさ」をセンセーショナルに描いている。そのエッセイ調の描写が大きな反響を集め、韓国で130万部を記録するベストセラーとなり、日本を含む16か国で翻訳された。さらに、本日から映画も公開されている。今回は本作品の魅力について極力ネタバレをさけつつ、紹介する。

 

 

1.あらすじ

 本書はまず、子育てに従事する主人公キム・ジヨンが突如別人になりきったりと、彼女の精神が崩壊する描写から始まる。その後、精神科医の前で彼女は現在に至るまでに経験した「女性差別」を交えつつ、自身の半生を語る。

 

ここで意外なのは、彼女の半生がありふれているということである。特別裕福でも貧乏でもない普通の家庭に生まれ、義務教育を受け、受験をして、大学で恋人ができて、仕事をして、結婚をして、子育てに専念するため退職をする。しかし、これはあくまで表面上の話―淡々と事実を述べただけの、「結果」にすぎない―であり、その背景には「性差別」が巧妙に隠されている。

 例えばそれはあるときは主人公と姉が部屋を共有する一方で弟は1人で1部屋独占したことであったり、あるときは学校の規則が女子にはひどく厳しい一方で男子は「四六時中運動するから」という理由でTシャツやスニーカーの着用を黙認したり、またあるときは痴漢の被害を受けたのにもかかわらず「そんな恰好してるからだ」と父に叱られたり...。カタチは違えど、そこには確かな理不尽があったのだ。

2.悪意なき差別

「俺のせいで苦労して働かせてしまいすまない」

「俺たちがやるから、君はそこでただ座っているだけでいい」

これらは一見、男性が女性に優しく接するいわば「ジェントルマン」で善い行いに見える。しかし、その優しさが逆に女性を苦しめていることを彼らは知らないのだ。。

この手の「ジェントルマンな行い」は自分が相手より優位の立場にあるときにしかでてこない、つまり対等な存在として認識していないともとれるのだ。このような優しさは無自覚な分、悪意のある差別より厄介である。

 

3.親世代の差別

主人公の母親の存在は、本書をより魅力的なものにしている。主人公の生きる時代は法整備が進んだこともあり、女性も普通に大学に行けたり就職できるようになったりしている。

 

その一方で母親の生きていた時代はその「当たり前のこと」すら許されなかった。というのも、「一家の稼ぎ頭は男の子とされ、男の子の成功が一家の悲願であり、その成功のために娘たちは嬉々として男兄弟を支えた」時代だ。その考え方がまかり通っていたこと、父方の祖母から「男の子を産め」というプレッシャーをかけられていたこと、そして家計の事情が折り重なった結果、3人目の娘を中絶するという苦渋の決断を余儀なくされた場面もあった。驚くべきなのは、この時代ではそれが「当たりまえ」であり、3番目以降の子供の出生比は男児が女児の2倍というデータがあることだ。

4.母親の強さ

そんな壮絶な時代を生き抜いたからこそ、主人公の母親は芯があり、強かった。彼女だけは常にキム・ジヨン達姉妹の味方であったし、就職できないジヨンに対し父親が「就職せずに嫁げ」と発言した際に激昂してもう反論したのが印象的であった。当時一家で一番偉いとされていた父親に臆することなく反論できるような母親はそうはいないだろう。

 さらに、父親顔負けの経営者としての手腕を発揮する場面も散見された。このような人としての強さを目の当たりにすると、キム・ジヨン達の時代に生まれれば、キム・ウンシル課長みたくキャリアを自ら切り開いていたかもしれないと思ってしまう。時代の潮流はそれほどまでに度し難く、残酷なのだろう。

5.本作品に込められたメッセージ

しかし、本書の伝えたいメッセージはそこではない。ジヨンの母親たちの世代が女性差別に屈せず抗ったからこそ、ジヨンたちは学問の自由を獲得できたし、男女差別禁止及び救済に関する法律も制定された。ジヨンたちも給食配膳順が不公平、女子だけスニーカーやTシャツで登校できないのはおかしいと断固として屈しない姿勢で臨み、理不尽な不文律を壊してみせた。

 

 このような一見小さいことに見える理不尽を壊し続けることで、終わりの見えない性差別問題(他の差別も)を前進させることができるのではないだろうか?

「差別はなくならないと分かっていても、理不尽に抗い続けることが無慈悲ともいえる時代の価値観を変えることができる」

それが今を生きる女性に向けたメッセージではないだろうか?

もちろん本書は女性だけでなく男性にもメッセージがこめられている。それも非常に強烈なものだ。それが何かはぜひこの目で確かめてもらいたい。一生忘れられない読書体験になるだろう。

↓ランキングに参加しています。応援お願いします!

にほんブログ村 本ブログへ